【趣味のメダカ】 紅累代記

錦龍三色や紅かむろなどの「新品種が生まれてきた歴史」のパートでも記述したが、このようなメダカたちの祖となったメダカが紅である。 ここでは紅から始まる累代記をご紹介したいと思う。今後、皆さんのメダカ繁殖のヒントなってくれれば幸いである。

紅は、楊貴妃透明鱗メダカに付けられた品種名である。同じ楊貴妃透明鱗でも、系統の違いによって篤姫という品種が存在する。 この紅を親として迎え入れたのは2014年、すべてはそこから始まった。

【龍の鱗をもつ2種類のメダカ】
F1個体の中に三色メダカの形質をもっていそうなメダカが現れたことは「新品種が生まれてきた歴史」でも紹介した通りであるが、これ以外の個体から選抜育種を行って固定した品種が 紅龍(こうりゅう)メダカと赤頭龍(せきとうりゅう)メダカである。まずはこれら2種に着目して話を進めていく。紅龍メダカと赤頭龍メダカ、両者とも名に龍という字を冠しているが、 その理由は鱗にある。龍の鱗といえば、その一枚一枚がまるでひとつの生物であるかのような存在感を放つ。紅龍メダカの鱗は、朱赤色の基調色に赤銅色の縁取りが入り、 一方で赤頭龍メダカの鱗は、琥珀透明鱗由来の山吹色の基調色に黒の縁取りが入る。この縁取りが鱗を際立たせるため、龍鱗を髣髴とさせるような鱗となる。

さて、これら2種のメダカは、紅のF1個体の中に現在の完成形に近いメダカが既に存在していた。そのプロトタイプとも呼べる個体たちを始めて見たときも、 やはりその鱗に目を奪われたことを鮮明に記憶している。朱赤透明鱗系の紅からここまではっきりした琥珀透明鱗が出現したこと、そしてヒカリ体型であるはずの 紅から普通体型のメダカがより多く出現したことは未だに謎ではあるのだが。F2以降の育種は比較的容易で、選抜と淘汰をひたすら繰り返すだけで異種交配の必要は無かった。 そのような経緯を経て、F4個体では固定率が8割を越すようになった。現在もこれらのメダカは血統を維持し続けている。

【紅から錦龍三色、そして錦龍紅白へ】
ここでは「新品種が生まれてきた歴史」では書ききれなかったこだわりのポイントなどを書いていく。先述の通り紅のF1から緋と白地と黒色素胞がバランスよく入った個体が現れた。 緋が少なければ、それは白斑メダカになってしまうし、白地が隠れすぎるとそれは赤斑メダカとなってしまう。墨が入っていなければ、それは親の紅そのものである。 今思えばこのバランスが良い個体が現れてくれたことが、何よりの僥倖であったと思う。しかしながら、このメダカを得たからといって上手くいかないのが、メダカ育種の常。 F2では同様の特徴を持つメダカはほとんど得られなかった。それでも出現率が若干ながら向上したこともあり異種交配などはせずに、狙った特徴をもつ個体を集めていく選抜育種の姿勢を貫いた。

F6時点での固定率は約50%、この頃になると思い描く最終形の柄をもつ個体がちらほら現れようになり、それらを親に用いることができた。 それと同時に、色揚りが早い個体と、より鮮やかな朱赤色を発する個体を選抜して親に用いるようになった。現在F11の錦龍三色、このようなヒストリーのもと作出されたメダカである。

錦龍紅白は、文字通り同系統の錦龍三色の紅白形質メダカだ。このメダカを作出するにあたり、とにかくこだわったのは、純粋な紅白であること。 紅白メダカとして売られているメダカの中には、一見紅白に見えても、保護色を発現させた際、墨が現れる個体も存在する。個人的な意見になるが、 やはりそのようなメダカは紅白とは呼べない。紅白の錦鯉を、青水に入れても墨が出てこないように、紅白を名に冠するメダカはいかなる状況でも紅白でなければならないと考えた。 黒い容器でしっかりと飼いこみ、一切墨が出なかった個体を次世代の親に用いることを繰り返した。F11を迎えた現在、紅白のカラーバリエーションを固定することに挑んでいる。 丹頂や鹿の子など金魚で見られるような紅白柄である。紅白メダカの柄は遺伝子によって制御されているため、育種を進めていけば柄の固定も理論上は不可能ではない。 今後も錦龍紅白の進化を追い続けたい。



【透明鱗を超えた透明鱗。紅かむろと銀かむろ】
透明鱗をさらに追求するためにシースルーアルビノという大半の色素胞が欠乏した品種を、錦龍三色と交配させたことは先述の通りである。 表皮・真皮の色素胞が少なくなったため、腹膜などの金属光沢が際立ち、当時の他の透明鱗性のメダカとは一線を画すメダカとなった。 現在、このような金属光沢は内膜光と呼ばれ、百式メダカや幹之体内光メダカなどで着目されることが多い。

錦龍三色とシースルーアルビノを交配させて得られたF1個体は、緋や墨をもたらす黄色素胞と黒色素胞が消失してしまったのか、 その多くが白メダカを透明にしたような表現をもつメダカであった。どうしたものかと頭を抱えたのを覚えている。案ずるより産むが易し!と、F1を全て親にしてF2を採ることを決断した。 得られたF2には若干ではあるが墨が入る個体が現れた。これが銀かむろの祖となったメダカである。この銀かむろの祖となったメダカは思い描いていた、 より透明なボディを持っていたため、これを親としてF3を採卵し始めた。しかしながらF2でもF3でも緋が乗るメダカはついに現れなかった。 親に用いたシースルーアルビノは純粋なアルビノで、どちらかといえば黄色素胞が遺伝されても良いはずなのだが。これも未だに紅累代記における謎である。

どうしてもこの系統に緋を乗せたかったため、考えたのが銀かむろと錦龍三色の戻し交配である。代を重ねること3代。頭部に緋が乗る個体が現れた。 しかしその緋はどちらかというと黄色に近く、とても緋と呼べる代物ではなかった。しかし、これにさらに濃い体色をもつ錦龍三色を交配させて代を重ねること、さらに3代。 やっと緋とよべる緋がのるようになった。そしてこの時、この品種の名前を『紅かむろ』と名付けようと心に決めた。今更、名前の由来の話になってしまうのだが、 かむろとは漢字表記すると冠となり、文字通りかんむりのことを指す。頭部に緋が現れるメダカ、緋をかぶったメダカということで紅かむろと名付けたのだ。 実を言うとこの時まで銀かむろという名前も存在しておらず、紅かむろに対して銀色に輝く頭部をしていたため、銀かむろと名付けたのだった。

面白いことに紅かむろの緋は、頭部以外に入ることがめったにない。おそらくこの辺りにはシースルーアルビノの血が色濃く現れているのだろう。 透明鱗の追求を目指して作出に励んでいただけで、系統などは全く意識していなかったのだが、最近になって話題になってきたオーロラ幹之に近いと推測している。 オーロラ幹之もまた体表の色素胞を少なくしたことで進化を遂げたメダカである。そのため、オーロラ幹之系統との異種交配によってさらなる進化に期待がもたれる。











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