小さな怪獣!カブトトカゲ
カブトトカゲは90年代から流通しはじめた不思議なトカゲです。
現在、3種類が流通しています。
カブトトカゲって?
カブトトカゲは、トカゲ科、カブトトカゲ属に分類され、ニューギニアやビスマーク諸島、ソロモン諸島などに10種類ほど分布しています。
主に流通するのは、アカメカブトトカゲとモトイカブトトカゲの2種類ですが、シュミットカブトトカゲも流通例があります。 カブトトカゲの仲間は、どれも非常に特徴的な外見をしており、世界中に根強い愛好家がいますが、生態や分類、種類によっては正確な生息地すら、詳しいことはわかっていません。
アカメカブトトカゲについて
アカメカブトトカゲTribolonotus gracilisは、最初に流通したカブトトカゲで、別名をメベニカブトトカゲとも呼ばれています。
ニューギニア島北部に分布し、全長16p〜20p。夜行性で、日中は熱帯雨林の落ち葉や倒木の下などに潜んでいます。 野生下では昆虫や節足動物などを捕食しており、繁殖形態は卵生で、1回に1個〜3個の卵を、数回に分けて産卵します。
背は黒く、腹部は灰白色で、目の周りに鮮やかな朱色が入るのが特徴ですが、これはある程度成長した個体だけで、幼体にはありません。 頭部は大きく、兜のように張り出し、背や尾には大きな棘状の鱗が並んでいます。発声器官があり、危険を感じると「ギッ!」と声を出すことがあり、体を硬直させて擬死(死に真似)をすることもあります。
モトイカブトトカゲについて
モトイカブトトカゲTribolonotus novaeguineaeは、アカメカブトトカゲの後に流通し始め、別名をニューギニアカブトトカゲ、シロメカブトトカゲとも呼ばれています。
ニューギニア島に分布し、全長16p〜18pほどで、アカメカブトトカゲよりも若干小さく、体格も華奢な印象を受けます。野生下での生態は、 アカメカブトトカゲとさほど変わらないと思われますが、民家の近くの廃材置き場などで見つかることがあり、アカメカブトトカゲよりも幅広い環境に適応している可能性があります。
アカメカブトトカゲによく似ていますが、体色は茶色で、眼の周りに色は入らず、背中の棘状の鱗はより鋭く外側に張り出しています。こちらも発声器官があり、同様に声を出すことがあります。
シュミットカブトトカゲについて
シュミットカブトトカゲTribolonotus schmidtiは、2015年頃に流通し始めたカブトトカゲです。
ソロモン諸島のガダルカナル島(周辺の小島にも生息すると言われていますが、詳細は不明)に分布し、全長7cmほどの小さな種類です。 一見、カブトトカゲの仲間に見えないかもしれませんが、よく見ればヘルメットのように角張った頭部を持ち、背中に大型鱗が並んでいます。
野生下での生態は不明な部分が多いものの、ガダルカナル島では最も普通なトカゲの一つとされています。夜行性で、多湿な熱帯雨林の林床に生息し、 クモなどの小動物を捕食しています。なお、本種はカブトトカゲとしては例外的に胎生であり、幼体を1頭出産します。
カブトトカゲの飼育について
輸入された当初は、輸送状態が悪く、飼育データなどがほとんど無かったため、飼育の難しい種類とされていました。現在は様々な問題が改善され、以前にくらべて飼育も難易度もさがりましたが、 いまだにはっきりとした飼育方法は確立されておらず、少しクセのあるトカゲといえます。もっとも、それらを全部ひっくるめても、お釣りがくるくらい素晴らしいトカゲだとは思いますが…。
カブトトカゲの性質
カブトトカゲは一般に、神経質で不活発。いつもどこかに隠れている…というイメージがあるようです。それ自体は間違いではありませんが、 飼育しているうちに環境にも慣れ、それなりに活発になります。私が飼育しているアカメカブトトカゲとモトイカブトトカゲは、 私がケージの前を通り過ぎるだけでシェルターから顔を出し、餌を入れれば日中でも関係なく捕食します。もっとも、ハンドリングするとギーギーと鳴いて嫌がりますが…。
言葉にするのが難しいですが、一般的なトカゲを飼育するのではなく、“カブトトカゲという生き物を飼育する”という感覚が大切な気がします。 まだ不明な部分が少なくないトカゲなので、飼育するうちに様々な発見があるでしょう。
飼育ケージ&環境について
前述したように、飼育方法が確立されていないのですが、筆者の飼育環境を説明します。
アカメカブトトカゲ、モトイカブトトカゲのケージに関してですが、そんなに活発な種類ではないので、1匹〜2匹ならば60cm水槽、もしくは底面積を重視したプラケースなどでよいでしょう。
まず、ケージ内の4割〜5割に多湿な場所を作り、残りをカラッと乾燥させています。日中は、ほとんどの時間を多湿な エリアに設置したシェルター(隠れ家)の中で過ごしていますが、夜間は動き回っています。蒸れには弱いので、蓋は通気性の良いものを選びましょう。
シュミットカブトトカゲに関しては、全くの手探り状態なのですが、他の2種よりも乾燥に弱そうなので、ケージ全体に湿らせた水苔やピートモスなどを敷き詰め、 植木鉢の破片をシェルターとして利用しています。日中はほとんど出てきませんが、夜間は動き回っているようです。なお、本種は小型ながらも、大変強健な種類で、 蒸れと乾燥にさえ注意すれば、飼育は難しくなさそうです。
照明について
夜行性なので、照明は必須ではないと思われますが、爬虫類用の蛍光灯などがあってもよいでしょう。熱源となるホットスポットなどは使用しないほうが無難です。
温度について
温度は25℃〜28℃がよいでしょう。高温と蒸れには弱いので注意が必要です。保温に関してですが、プレートヒーターや、 保温球のように一部のみを暖めるようなものではなく、エアコンなどを使用して、空気全体を暖めてやったほうが良いようです。
湿度について
場所によっては100%近い湿った場所が必要ですが、ケージ全体がジメジメしていると、皮膚病などになってしまう場合があります。
餌について
餌は市販されているコオロギなどでかまいません。爬虫類専用の栄養剤などを添加してやりましょう。また、アカメカブトトカゲ、モトイカブトトカゲは、 個体によっては人工飼料(レオパゲルなど)も食べる場合があります。シュミットカブトトカゲも体のサイズにあったコオロギなどを与えるようにします。 給餌間隔に関してですが、幼体ならば毎日、成体ならば2日〜3日に一回、食べるだけ与えましょう。なお、食べ残しのコオロギなどはトカゲを齧(かじ)る場合があるので、回収しましょう。
雌雄判別について
カブトトカゲは雄の方が大きくなり、腹部の鱗や頭部の形状などに違いはありますが、もっとも簡単なのは後ろ脚でしょう。 アカメカブトトカゲとモトイカブトトカゲの雄の後ろ脚の指には、通称“抱きダコ”と呼ばれる、特徴的な鱗が発達します(シュミットカブトトカゲに関しては未確認です)。
繁殖に関して
アカメカブトトカゲとモトイカブトトカゲは約2年〜3年ほどで成熟します。飼育下でははっきりとした繁殖期は無いようで、いつの間にか産卵している…という場合が多いようです。産卵された卵は60日前後で孵化します。
シュミットカブトトカゲは胎生で、4cm前後の1頭の子供を産みます。生まれた子供は親と同様の環境で、問題なく育つそうです。
カブトトカゲの寿命
はっきりとしたことはわかりませんが、10年前後と思われます。とりあえず、筆者ところでは7年生きており、現在も繁殖している個体がいます。
夢のカブトトカゲ
いかがでしたでしょうか?カブトトカゲについて、なるべく簡単に説明したかったのですが、筆者である私自身がカブトトカゲに強い思い入れがあるので…あまり自信がありません。
カブトトカゲは、実は私にとって(もしかしたら、多くの人にとっても)、永年憧れた、夢のトカゲでした。私が初めてカブトトカゲの存在を知ったのは、パプアニューギニアで発行されたアカメカブトトカゲの切手でした。 その切手には頭部のアップしか描かれておらず、携帯もインターネットもない時代だったので、その全貌は不明でしたが、小さな切手からは怪しい存在感が溢れていました。
1990年代、生きたアカメカブトトカゲが流通するようになり、初めてそれを見た私は、驚きのあまり卒倒しそうになりました。「ああ、小さな怪獣がいる。欲しい!飼ってみたい!」心の奥底からそう思いましたが、 当時は大変高価なトカゲでした(約$1200)。しかも、飼育情報が皆無で「飼育が難しい」とか「何も食べずに死んだ」とか「ナメクジしか食べない」…などなど不穏な噂ばかりでした。
その後、がんばってお金を貯めて、私もカブトトカゲの飼育にチャレンジしましたが、夜中にいきなり「グー!」とか「ギー!」とか鳴きだしたりして、大変驚かされました。今となっては良き思い出ですが、当時は悩み熱がでるほど苦悩していました。
そして現在、両生爬虫類の飼育技術は向上し、カブトトカゲもコンスタントに流通するようになり、繁殖例まで聞かれるようになりました。わずか20年程度でここまで状況が変わってしまうとは… でも、どれほど時代が流れても、カブトトカゲの魅力は変わりません。私にとっては、いつまでも“小さな怪獣”であり、“夢のトカゲ”です。