伝説の火竜!? マダラサラマンダ


 

マダラサラマンダ。西洋では最も古くから知られていた有尾類です。



マダラサラマンダとは?

マダラサラマンダ Salamandra salamandra salamandra とは、イモリ科サラマンドラ属に分類される有尾類の仲間で、 ヨーロッパ東部からイタリア北東部(ポーランドからイタリア北部まで)に広く分布しており、ヨーロッパを代表する両生類であると言えます。英名では“Fire Salamander“と呼ばれており、 国内でもファイアサラマンダー、マダラファイアサラマンダー、ヨーロッパサラマンダーなどいくつかの流通名を持ちます。

サラマンドラ属は一種のみで形成され、15〜20ほどの亜種が存在しますが(研究者によって見解は異なるようです)、 このマダラサラマンダが基亜種であり、ペットとしての流通量が最も多く、飼育が容易です。

全長は20cm〜28cmほどで、べったりとした黒地に黄色い斑模様が入ります。模様の入り方は個体によって様々ですが、この鮮やかな模様は自身が有毒であることを外敵に知らせる警戒色です。

ほぼ完全な陸生種であり、繁殖期以外は水場には近づかないようです。野生下では森林の落ち葉や倒木の下、他の小動物が掘った巣穴などに潜み、 夜間にミミズやクモ、他の両生類などを捕食しています。なお、マダラサラマンダの仲間は空間認識能力が高く、餌を採った後は元の場所に戻ってくるそうです。

マダラサラマンダは、最も古くから研究されてきた両生類の一つと言えるでしょう。その分野は生物学のみならず、神話学や魔術、錬金術の分野にも及びます。 それもそのはず、本種こそが北欧の伝説に伝わる火蜥蜴(サラマンダー)のモデルなのです。今回は彼らの博物学にも、ちょっと注目してみましょう。

 

伝説のサラマンダーのモデルとなったマダラサラマンダ。その実態は・・・
 



飼育方法

飼育環境

飼育の基本は以前紹介した、キボシサンショウウオに準じます。比較的不活発であり、立体活動もほとんど行わないので、飼育ケージは底面積を重視したプラケースや小型水槽などが適しているでしょう。

床材にはたっぷりと湿らせた水苔などを敷き詰め、隠れ家を設置しただけのシンプルな環境で飼育できますが、その気になれば垂直なガラス面も張り付いて登ることができるので、脱走には注意が必要です。

他の有尾類に比べると、あまり物怖じしない性格なのか、ケージの中を歩き回ったり、隠れ家の上で休んでいたりすることも多いですが、隠れ家そのものは必須です。なお、空間認識能力が高いので、あまりレイアウトを変えないようにしましょう。

夜行性なので光源は必要ありません。照明を設置する際には、蛍光灯タイプの物を使用し、ケージ内が高温にならないよう注意しましょう。水場は特に必要ありません。なお、マダラサラマンダは非常に長寿であり、50年近い飼育記録があります。


ケージの中を歩き回るマダラサラマンダ。
 

高温&蒸れはNG

マダラサラマンダは若干神経質な一面はあるものの、飼育そのものはさほど難しくありません。ただし、蒸れと高温には注意が必要です。

まず蒸れに関してですが、有尾類の仲間は湿った環境を必要としますが、蒸れには非常に弱い一面があります。ケージの蓋などは通気性の良いものを使用するようにしましょう。

続いて温度に関してですが、他の亜種に比べればまだ耐性はあるものの、25℃を上限とし、夏場の高温に注意が必要です。


背中の模様がストライプ状の個体。模様は千差万別です。
 

エサについて

ミミズ、ハニーワーム、コオロギ、ピンクマウス(与える際には温度に注意が必要です)などを食べます。特にコオロギなど昆虫類に反応する個体が多いようです。 コオロギを与えるときは後脚を取り除き、動きを遅くしたものを与えましょう。ミミズは餌専用の物か、自分で採集した物を使用しましょう(釣餌用のものは使用しないほうがよいと思います)。

慣れればレオパゲルやツノガエルの餌のほか、熱帯魚用の餌(キャットやカーニバルなど)を水でふやかした物も食べるようにもなります。これら人工飼料に餌付いてくれれば、 管理が容易になりますが、単一の餌を与え続けるのは心配なので、様々なものをバランス良く与えるようにしましょう。


真っ黒な眼がかわいいマダラサラマンダ。
有尾類は眼が大きくてかわいいものが多いです。
 

マダラサラマンダの毒性

有尾類の多くは外敵から身を守るために皮膚にある腺から毒を分泌します。これには表皮に付く雑菌や寄生虫を防ぐ効果があるとも言われています。マダラサラマンダにも後頭部の両側と背中の正中線にそって毒腺があり、その大きさは有尾類中最大と言われています。

マダラサラマンダの毒は『サラマンダリン』と呼ばれ、アルカロイド系の神経毒です。この毒はあらゆる脊椎動物に対して効果があるとされ、体内に入ると痙攣や高血圧を引き起こします。マダラサラマンダの毒腺は骨格筋に囲まれており、 その力で毒液を相手に向かって高速(秒速3m)で噴出することができるそうです。一説では、この技(Fire=発砲する)を持つことから英名の“Fire Salamander”の由来になったとも言われています。

文章にしてみると非常に恐ろしい生物のようですが、私はマダラサラマンダを10年以上扱ってきて、発砲されたことは一度もありません。注意するに越したことはありませんが、本来は静寂を愛する平和的な生き物です。


後頭部の両側にある毒腺。ここから毒を飛ばすようです。
 

直接手で触らないで

有尾類の多くは高温に弱いので、当社では直接手で触らず、小型ケースなどに入れて移動しています(極端な例ではありますが、一部の種類では人間が触った箇所が火傷のような症状を引き起こした例もありました)。 また先述したようにマダラサラマンダには毒腺があり、危険を感じると毒液を飛ばすという技もあるそうです。様々な理由から、直接手で触るのは避けた方がよいでしょう。


当社では有尾類の仲間を素手で触ることは御法度にしています。
 



伝説の火竜、サラマンダーの伝説

マダラサラマンダについて調べていると、この生物が実に古くから研究されていたことがわかります。そしてその分野は生物学というよりは、魔術や錬金術といったオカルトっぽい分野で特に盛んです・・・あまり本稿と関係ありませんが、ちょっと紹介させてください。

本種の学名である“Salamandra”とはギリシア語で『火の蜥蜴』であり、伝説の怪物サラマンダーを示しています。このサラマンダーの伝説は古代エジプト時代から記録があり、サラマンダーは火の中で生まれ、火を食べて成長し、火を燃え上がらせたり、逆に消したりできる怪物だそうです。

前2世紀頃のギリシアの詩人、二カンドロスはサラマンダーを火にくべても傷つかないと記しています。さらにゾロアスター教(古代ペルシアを起源の地とする宗教)においてもサラマンダーは火の化身として認められ、サラマンダーをくべた篝火は月にまで達したそうです。こういった記録から、 後にサラマンダーは錬金術における重要な存在(四大元素の一つ)とされ、多くの権力者たちがその力を手に入れようとし、フランス王フランソワT世のエンブレムにもなりました。

冒険家マルコ・ポーロもサラマンダーの皮なる鉱物を手に入れたと『東方見聞録』に記述しています。また、15世紀にはアンドレアスなる人物がサラマンダーの血に浸からせた服を造り、この服は実際に燃えず、袖を火に当てても熱を感じなかったそうです。

現在では、マルコ・ポーロが見つけたサラマンダーの皮や、サラマンダーの服の正体は石綿だったと考えられています。また、かの自然界を網羅した大著『博物誌』の著者であるプリニウスもマダラサラマンダは野生動物であり、火にくべれば当然死ぬ、と書き記しています。

何故に火と関係の無い、陸生の有尾類である本種が伝説のサラマンダーとされたのか、はっきりしたことはわかっていませんが、一説ではその鮮やかな模様に魅せられた人々が、想像力を膨らませたのではないかと考えられています。

想像してみてください・・・人里はなれた山中で見たことも無い不思議な色の生物を見つけて、興味のあまり刺激したら、毒液を飛ばしてきて、それが誤って眼や口などに入ってしまうと、まるで火を押しつけられたように熱い!痛い!苦しい!・・・そんな経験が、こういった伝説を生んだのかもしれません。

マダラサラマンダは伝説の火竜ではないかもしれませんが、大自然が生み出した素晴らしい芸術品です。時には彼らを眺めながら、伝説の世界に想いを馳せるのもいいですね。


伝説の火竜にしてはちょっと可愛すぎますね。
 


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