アピストグラマの飼育を楽しむために知っておきたいこと

アピストグラマsp.ミウア


アピストグラマの飼育を楽しむために知っておきたいこと

目次




1.アピストグラマという魚たち

1-1.アピストグラマというグループ

アピストグラマ・エリザベサエ

魚類の中では進化の先端グループに位置するシクリッド科の中で、なぜか体を小さくすることで自然界に適応した魚たちがいます。なりは小さいけれど進化の先端グループにいるだけあって、このアピストグラマ(以下、アピスト)の仲間たちは、多彩な行動や状況で変わる体色なども特徴で、長い間一部の愛好家の目を楽しませてくれています。

サイズは大きくても10cm弱、たいてい5-6cm程度です。同種であっても雌雄で形や色彩差があり、♂はヒレの伸びや色合いの派手さが目立ち、♀は♂より一回り以上小ぶりながら発情すると多くの種類が全身黄色になり卵やこどもたちをひと月以上保育します。その光景はとても微笑ましく、多くの飼育者たちやその家族をも巻き込み楽しみが広がります。


1-2.アピストグラマの分布と生息地の環境

アピストグラマsp.ミウア

彼らの生息地はちょうど日本の裏側にある南米大陸の熱帯エリアを中心として広範囲に広がっています。多くの魚類と多様な生き物たちをかかえたアマゾン周辺がふるさとです。

アピストは、自らのよりどころを岸部近くの落ち葉の降り積もるエリアとし、そこを主たる生活の場としています。もっぱらアピストの外敵となる捕食者は、「鳥」と「フィッシュイーター(魚)」と「水生昆虫」そして「エビやカニ(甲殻類)」たちです。鋭く堅いとげや毒などを持たないアピストたちは、たいていの種類が膝下からくるぶしぐらいの比較的浅い水深に潜みながら、岸辺に降り積もる落ち葉の下で身を潜め、それら外敵からの捕食を免れようとしています。ひとたび岸辺から離れてしまうとそうした捕食者たちの格好の餌食となってしまいます。

川岸や湖岸に多くの落ち葉があれば彼らの生活の場として好都合となり、おのずと広範囲に分布を見せます。ただ、岸辺沿いの分布というのは、アピスト自身にとっては広範囲の分布であっても、種類ごとに見ればそれぞれが限定的な範囲での生活を強いられており、1種が常に分布を拡大していける可能性は低いとみています。ローカルな種類が長年そこで暮らしており、こうしたことでそれぞれの地に適応していったと考えるのが自然です。その結果、たくさんの種類が誕生し、たくさんの地域変種が存在しており、いまだに毎年のように新種が紹介されているのです。


1-3.アピストグラマの寿命

雨季と乾季を繰り返す生息地の気候を鑑みると、自然界での彼らの寿命は長くても1年半ほどと考えられます。意外に短い印象ですが、降雨による水位の変化は日本の護岸整備された河川の比ではなく、場所により数十メートルに及びます。

乾季では河川が干上がり水たまりになったところでもアピストの生存が確認でき、ギリギリまで命を長らえています。ただ、次の降雨まで持たずにそのまま干からびてしまうか、その前に鳥などの捕食者により狭くなった水域で効率よく捕食されてしまうのが流れです。

一方で、水槽の飼育下においては干からびることも鳥に捕食されることもないので、上手に飼育対応できれば天然での状況よりも長命で、普通に2〜3年は暮らしてゆけます。筆者も最長で5年ほど飼育したことがあり、聞いた話では、8年飼育したことがあるという事例もあります。


2.アピストグラマを飼育する

2-1.アピストグラマの生息地の水質

アマゾン川流域

南米大陸に広範囲に分布しているということは、生息エリアやその河川によって「ふるさとの水質」も多岐にわたります。日本の河川と変わらぬ中性から弱酸性の河川も多いのですが、場所によっては年中pH5.0以下と酸性寄りの河川もいくつか知られ、名だたるアピストもそこで暮らしています。このことから、種によって水質の好みが違うということを知れば、実際の飼育や種類のチョイスにおいて大きなアドバンテージとなります。簡単にエリア解説をしておくと、以下のようになります。

・弱アルカリ〜弱酸性(中性付近)【pH7.5-6.5】
  →パンタナルエリア
・弱酸性【pH6.8-5.8】
  →アマゾン川水系(ブラジル領とペルー領)
  →オリノコ川 中下流域(コロンビア領)
・酸性【pH5.5-4.0】
  →ネグロ川水系(ブラジル領)
  →オリノコ川 上流域(コロンビア領)

これらを大まかな目安としてとらえておくと良いでしょう。まずこれまでの自分なりの水槽管理でできている「自宅水槽の水質」を把握します。上記を参考にどこに当てはまっているかが認識できたら、そのあとでアピストの種類選びです。生息地の水質に合わせて種類選びができると不意のトラブルも少なくなるでしょう。アピストにとっても過ごしやすい環境の提供は何よりです。ここはしっかり自らの水槽の環境を把握し、そして導入前に備えておきます。


2-2.初めてのアピストグラマを選ぶ

アピストグラマ・ビタエニアータ

縄張りを主張する習性は、ワイルド個体でもブリード個体でも変わりません。はじめて扱う際にもいずれの選択肢でもOKです。

基本的に購入時の選択として一番影響するのがそのペアの値段ですので、最初は無理せず入手できる種類から手を出すのが無難です。現実のところ、”高い”イコール”キレイ”という関係性はアピストにはなく、入手難易度などが値段のベースになっているので、自分好みのきれいどころが比較的手に入りやすい値段で売られていることは多々あります。逆に言うと、なんでこんなに高いの?と思えるいわゆる「ナカナカジミーシリーズ」というのも存在しています。(笑)


3.アピストグラマを飼育する上でのワンポイント

アピストグラマ・アガシジ (スーパーファイヤーレッド)
アピストグラマ・ホングスロイ
アピストグラマ・アガシジ (ファイヤーレッド)
アピストグラマ・オルテガイ(パパゲイ)

アピスト飼育を楽しんでいく中で、もっと発色を良くしたい、もっとキレイな体型でキープしたい、そしてできればヒレを上手く伸ばしてあげたい、などと次なる欲がつきません。ここから上の飼育レベルとなると、水槽のコンディションに対する強い意識が必要となってきます。

これまでは、未知なるアピストという魚を自宅水槽に迎え入れ、そして問題なく飼育できるというところまで。ここからはそれをクリアした後、そうした状況からのステップアップです。「現状のコンディションより一歩上」ってなんだ、と常々意識するようになります。

アピストにおいてのコツとしては、「水換えて満足しているのは飼育者なのかアピストなのか!?」という意識を常にできるようになることです。振り返り、落ち葉が流されない水流エリアで棲息しているアピストグラマは、頻繁な換水を嫌う傾向にあります。ルーチンで行う「週一回 1/3量」の換水がマイナスに作用することが多く、言わば「今週は換水しない」というのも管理のひとつであることを知ること。ステップアップできるかどうか、ひとつの壁になるのがここです。

あとは、この水槽は立ち上げてからどのぐらいの時間が経過しているかという意識。ここもキーとなります。立ち上げ後1か月なのか、半年なのか、1年なのか、それぞれに異なる管理の仕方が必要になってきます。慌てて換水をすることで立ち上がりかけていたろ過を台無しにしてしまうこともあります。

使用器材としては、使い慣れているモノを使ってゆくのがベターで、エーハイム製品であればフィルターのチョイスは「EHEIMアクア60」あたりが無難です。アピストに限っては30cm水槽から60cm水槽に対応できます。ペアで飼育することが多いアピストにおいては、不要な菌が増殖する可能性を高めてしまうような大きすぎるろ過容積は必要ありません。エサはブラインシュリンプをわかして与えるのがベスト。人工飼料でも良いですが、上を目指したいなら手間はかかりますがブラインシュリンプを給餌するのが良いでしょう。

水草水槽での飼育もアピストには向いていて、そこでEHEIMの外部式フィルターを使っているならそのままでよし。新規に設置するなら、ろ材はエーハイムメックだけにして、中のウールは入れないで使用するのが良いです。なぜなら給餌したブラインシュリンプがフィルターを通過しても、水槽内にまた戻るからです。メックだけでもある程度の物理ろ過は働くため、ウールを入れないデメリットは意外に少ないです。

繰り返しになりますが、使い始めてからこのフィルターはどのくらいの時間を経過しているのか、この意識を強く持つことができると、ひとつ上のコンディションというものも次第に見えてきます。つまり設置してからの経過期間によってフィルターのろ過能力は大きく異なってくるということです。せっかく活躍してくれているろ材をルーチンの作業で洗うことでみすみす能力ダウンを招いているという事、またろ材を洗うスパンを伸ばすことでさらに上のステージのろ過を見られるという事もあると知っておくことが大切です。


4.アピストグラマの繁殖

アピストグラマの卵
アピストグラマの稚魚たち
アピストグラマの稚魚たち
アピストグラマの稚魚たち

飼育はできている、だけどいまいち仔取りが上手くゆかない。水槽のコンディションを意識できるようになると、実は次のステップもまもなくして解決できてしまいます。

道具を選んだら、次は使いこなすこと、これを意識してみます。コツとしてはそれらを「時間軸の上にのせる」こと。どういうことかというと、アピストを飼いながらバクテリアもキープしていることを常に意識することが大事ということです。安定した水槽のコンディションは、次第に魚の振る舞いや状況で見て取れます。

魚の飼育経験が長い人にとっては、今飼育している魚が調子よさそうかどうか、元気かどうか、ということは見ていると自然と感じられるものです。特に意識せずとも不意に実感できていたりします。ここは自分の眼を信じて、その状況把握のためにアピストの観察時間を増やすようにします。未知の魚であるのなら目の前の振る舞いが良いのか悪いのか、その場では判断つきにくいこともあるでしょう。

導入後3週間以上、無事に経過していれば程なくして産卵までこぎ着けることができるでしょう。「なかなか産んでくれない」という声もたいていの場合は産卵前後の雌雄の行動変化に目が慣れていないためです。♀は産卵場所もしくは稚魚がいる場所に幾度となく戻り、見張りを続けているので、大事に飼育している魚の変化はじきに感じ取れるようになります。

実は、産卵を終えるとその後の飼育者の特別なケアなどは必要なく、基本的にペア任せで良いでしょう。せまい水槽での飼育では、雌雄の一方がやられてしまうこともあるので、日々の観察を怠らず変化があったら別水槽に分けてあげるなどの処置をします。

せっかく産んでも卵が徐々になくなったり、稚魚の減少が時折見られますが、健康であれば約3週間後に再び産卵をはじめることが多いので、今回ダメであっても気を落とさず、すぐさま今やっておくべき管理を優先して次に備えておくのが賢明です。

稚魚が減ってしまうなど上手くゆかないときは、水槽のコンディションがいまいちだったと考え、結果がすべてととらえながら「その時」を待つ感じです。期待もしていなかったのだけれど順調に推移することもありますから、それはまた「良い結果」として受け止め、ここまで来る水槽のコンディションや状況などを振り返ることがスムーズなステップアップにつながります。

稚魚の育成については、時の経過でこどもたちもサイズアップし、給餌量がどうしても増えがちです。水槽の容積やフィルター規模を考えつつ、許容を超えそうであれば何らか処置してゆくことも後々考慮してゆきます。


5.飼育・繁殖・育成のその先

アピストグラマ・ビタエニアータ
アピストグラマ・トリファスキアータ

入手したアピストが産卵し稚魚を連れる。入手時より見違えて日々キレイに変化してゆく、そんなさまを目の当たりにすると、「次の1ペア」がついつい気になり始めます。あらためて、情報検索するなどして模索し始めますが、同時に迎え入れるための水槽の準備をしなければならないことに気が付きます。こうしてアピスト用の水槽は徐々に増えてゆきます。自宅のスペースで空けられるところはないかと検討を始め、気が付けば複数の水槽で飼育するアピストマニアになっていくのです。

そうしたアピストマニアたちの日々のメイン作業は「一日一回のブライン給餌」のみだったりします。水槽本数が10本前後になってもその手間はさして変わらず、アピスト飼育水槽は設備費が知れているので、水槽本数はついつい増えがちです。換水作業については他の魚種の比較にならないぐらい少なくて良いので、もっぱら観察がメインとなります。これが良いのか悪いのか微妙なところではありますが、趣味に割ける時間とスペースを上手に判断しながら楽しんでいくことが肝要です。

記載種・未記載種含めるとアピストの種類は100を優に超え、種により入荷のタイミングや回数はまちまちですが、年間を通してさまざまな種類が輸入されています。ただ流通のメインフィッシュではなく、もっぱらおまけでやって来る魚種であるため欲しいときに市場で容易に入手できるとは限らないのが難点だったりします。とは言え、時季になると毎年やって来てくれる種類も少なくなく、専門店の関係者とコミュニケーションを上手く取りながらその時を待ち、迎え入れる流れとなります。


6.あとがき

長年アピストの飼育を続けている方々は、現地の生息エリアの情報を何かしら持っている。飽くなき追求はグーグルマップをマックスまで拡大し、その川の雰囲気を得ようとまでする。

筆者はかつて4度ほどアピストのふるさとであるブラジルに赴き、水辺で彼らに直接ふれてきたことがあるが、多くのマニアにとってもそのために時間を捻出し南米に出向くことは容易ではない。日本に居ながらにして現地情報を探る手立てもあるので、その欲求が異常に熱を帯びてくることもないかも知れない。つまり現状で満足できてしまうということ。

かつて見てきたブラジルの水辺にいるアピストたちは、本当に水域の浅瀬がメイングランドで、アピストを探すにはまず落ち葉があるところを見つけるところから始まった。各所で見てきた印象では、完全な止水域には姿を見いだせず、必ずわずかな水の移動が見られるところが多かった。少し深場から岸辺に追い込むように網を入れるとその姿を見られたが、実際のところ上からアピストが見えるわけではなく、落ち葉ごとすくい上げ葉をめくってゆくと魚がはねる感じで彼らと出合うことができた。

そうした現地経験をふまえ、日本での水槽の中でアピストをより良く楽しむ手法などを長年追いかけてきたが、ここまで来ると魚よりむしろその魚種を楽しんでいる人間の方に個人的な興味が向いている。ふと気がつけば、心熱く悩める現代の趣味人との交流が最も楽しみなことになっていた。



記事執筆:志藤 範行



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