アピストグラマとは?特徴や種類、飼育・繁殖のポイント
アピストグラマを飼育したいが何から始めて良いか分からない、たくさん種類がいすぎて選べないという方も多いと思います。ここではアピストグラマとはどんな魚なのか、種類による飼育方法の違いを解説しています。また、ただ飼育するだけにとどまらない、水槽内で繁殖まで見られるアピストグラマという魚の魅力をお伝えします。
目次
- 1. アピストグラマってどんな魚?
- 2. アピストグラマの種類
- 3. 初めてのアピストグラマの選び方
- 4.アピストグラマを飼育するために必要なもの
- 5.アピストグラマの飼い方
- 6. アピストグラマを飼育する上でのワンポイント
- 7.アピストグラマの繁殖方法
- 8.アピストグラマを迎え入れるコツ
- 9.あとがき
1.アピストグラマってどんな魚?
まずはアピストグラマの生態に関する基礎知識を解説します。
1-1.アピストグラマの特徴
アピストグラマは魚類の中で進化の先端グループに位置するシクリッド科の魚です。
その中で、なぜか体を小さくすることで自然界に適応した魚たちがいます。なりは小さいけれど進化の先端グループにいるだけあって、このアピストグラマ(以下、アピスト)の仲間たちは、多彩な行動や状況で変わる体色なども特徴で、長い間、一部の愛好家の目を楽しませてくれています。
サイズは大きくても10cm弱、たいてい5-6cm程度です。同種であっても雌雄で形や色彩差があり、♂はヒレの伸びや色合いの派手さが目立ち、♀は♂より一回り以上小ぶりながら発情すると多くの種類が全身黄色になり卵やこどもたちをひと月以上保育します。その光景はとても微笑ましく、多くの飼育者たちやその家族をも巻き込み楽しみが広がります。
1-2.アピストグラマの分布と生息地の環境
彼らの生息地はちょうど日本の裏側にある南米大陸の熱帯エリアを中心として広範囲に広がっています。多くの魚類と多様な生き物たちをかかえたアマゾン周辺がふるさとです。
アピストは、川岸近くの落ち葉の降り積もるエリアを主たる生活の場としており、その外敵となる捕食者は、「鳥」と「フィッシュイーター(魚)」と「水生昆虫」そして「エビやカニ(甲殻類)」たちです。自身を守る棘や毒などを持たないアピストたちは、落ち葉の下で身を潜めてそれら外敵からの捕食を免れており、自身のいるエリアを越えて分布を広げていくことはなかなか難しいと想像されます。
必然的に川岸沿いの局所的な分布がいくつも点在する形となり、その小さなコミュニティごとに適応し、独自の進化を遂げることになります。その結果、たくさんの地域変異種が存在するようになり、いまだに毎年のように新種が紹介されているのです。
1-3.アピストグラマの寿命
自然界でのアピストの寿命は長くても1年半ほどと考えられます。
意外に短い印象ですが、雨季と乾季による水位の変化は日本の護岸整備された河川の比ではなく、場所により数十メートルに及びます。そのため乾季になるとほとんどの個体が干からびてしまったり、浅瀬で捕食されてしまうと考えられます。
一方で、水槽の飼育下では乾季で干からびることも、鳥に捕食されることもないので、2〜3年は暮らしてゆけます。筆者も最長で5年ほど飼育したことがあり、聞いた話では、8年飼育したことがあるという事例もあります。
2.アピストグラマの種類
アピストグラマはいくつかのグループに分類することができます。ここではそれぞれのグループの特徴を簡単に紹介します。
2-1.アガシジーグループ
世界最大の流域面積を誇るアマゾン河、つまりソリモンエス川流域に広く分布しています。尾ビレの形がスペード型をしています。地域変種も多様で改良品種も見られ、目にする機会が多い種類です。
2-2.ビタエニアータグループ
時間とともに胸ビレを除く各ヒレの先端が伸張する人気の種類です。エレムノピゲなどビタエニアータ以外でも本グループと思われる種類がいくつかいます。ごく稀にブリード個体が流通しますが、ほとんどは現地採集のワイルド個体です。
2-3.カカトゥオイデスグループ
ペルーからブラジルまでと広域な分布を見せる仲間たちです。カカトゥオイデスは古くから知られる種類で、さまざまな改良品種も目にすることができ飼育も比較的容易です。それ以外ではアルパフアヨ・サルピンクションなどが知られ、将来的には新規開拓により新たな地域変種や新種の可能性も少なくないでしょう。
2-4.マクマステリーグループ
このグループはコロンビア領で多く見られ、マクマステリー・ホングスロイ・ホイグネイ・ビエジタ・アラクリナなど、魅力的な種類が多数かかえています。近年コロンビア国内情勢が改善したこともあり、新たな種類が多数紹介されるようになりました。
2-5.レガニグループ
厳密には別扱いすべきですがペルーのクルズィーたちやブラジル領のカエティーやレスティクローサ・コンブラエなど含めると、非常に種数の多い仲間たちです。典型的なシクリッド体型の小型版で、分布も広範囲にわたります。色彩豊かなペルー産のクルズィーの仲間、シングー川やタバジョス川上流域の大型種クランデリーなども含まれます。
2-6.トリファスキアータグループ
以前はトリファスキアータのみでしたが、エリスルラ・マキリエンシスなどいくつかの種類が知られるようになりました。生息地水質が弱酸性前後のため、導入は比較的スムーズです。代表種のトリファスキアータは青いアピストとして以前からよく知られ、飼育が比較的容易な種類です。
3.初めてのアピストグラマの選び方
非常にたくさんの種類がいるアピストグラマですが、種類によって性格や丈夫さ、飼い方に違いはあるのか、またワイルド個体とブリード個体で違いはあるのかなどについて解説します。
3-1.ワイルド個体とブリード個体の違い
もしかしたらブリード個体の方が性格が温和なイメージを持っている方が多いかもしれませんが、縄張りを主張する習性は、ワイルド個体でもブリード個体でも変わりません。はじめて扱う際にもいずれの選択肢でもOKです。
3-2.価格の違い
基本的に購入時の選択として一番影響するのがそのペアの値段ですので、最初は無理せず入手できる種類から手を出すのが無難です。現実のところ、”高い”イコール”キレイ”という関係性はアピストにはなく、入手難易度などが値段のベースになっているので、自分好みのきれいどころが比較的手に入りやすい値段で売られていることは多々あります。逆に言うと、なんでこんなに高いの?と思えるいわゆる「ナカナカジミーシリーズ」というのも存在しています。(笑)
3-3.生息地環境の違い
南米大陸に広範囲に分布しているということは、生息エリアやその河川によって「ふるさとの水質」も多岐にわたります。日本の河川と変わらぬ中性から弱酸性の河川も多いのですが、場所によっては年中pH5.0以下と酸性寄りの河川もいくつか知られ、名だたるアピストもそこで暮らしています。このことから、種によって水質の好みが違うということを知れば、実際の飼育や種類のチョイスにおいて大きなアドバンテージとなります。簡単にエリア解説をしておくと、以下のようになります。
・弱アルカリ〜弱酸性(中性付近)【pH7.5-6.5】
→パンタナルエリア
・弱酸性【pH6.8-5.8】
→アマゾン川水系(ブラジル領とペルー領)
→オリノコ川 中下流域(コロンビア領)
・酸性【pH5.5-4.0】
→ネグロ川水系(ブラジル領)
→オリノコ川 上流域(コロンビア領)
これらを大まかな目安としてとらえておくと良いでしょう。まずこれまでの自分なりの水槽管理でできている「自宅水槽の水質」を把握します。上記を参考にどこに当てはまっているかが認識できたら、そのあとでアピストの種類選びです。生息地の水質に合わせて種類選びができると不意のトラブルも少なくなるでしょう。アピストにとっても過ごしやすい環境の提供は何よりです。ここはしっかり自らの水槽の環境を把握し、そして導入前に備えておきます。
4.アピストグラマを飼育するために必要なもの
最低限、上記のような器具等が必要です。アピストの種類や状況に合わせて選定し、必要に応じて器具等を追加してください。
5.アピストグラマの飼い方
アピストグラマの具体的な飼育方法を解説します。
5-1.水質
水質重視の魚を飼育する水槽の基本として、収容した水槽全体をひとつの自然環境としてとらえ、維持管理をすすめる心構えが重要です。 先述した種による生息地河川の値が異なることを踏まえ、中性付近のpHが湖のみなのか、比較的低めが好みなのか、事前に把握してから導入するのがよいでしょう。
5-2.水温
棲息地の実水温を振り返って、市販されているオートヒーターの水温(26℃固定)で問題ありません。 気を遣うべきは夏場の時期で、外気や室温の影響で当然、水温も上昇します。 そうした時期は30℃を超えないよう心がけていればトラブルは少ないでしょう。
5-3.エサ
人工飼料でも無難に飼育できますが、生きたブラインシュリンプをわかして与えるのがベストです。 アピストたちが喜んで食べるのは言わずもがなですが、水槽のコンディションが整いやすく維持管理がスムーズになります。 ふ化した稚魚に対してもエサの種類を変えずにいけるメリットもあります。
5-4.飼育数
基本的にペアで楽しまれることが多いので、同居の当て馬になる魚を入れたとしても、収容数は知れています。 多数飼育はケンカの緩和にもなり、そうした面で向いていますが、一方でフィルターに対して負荷をかけすぎるようなことのないよう、投入するエサの量が過剰にならないようにそちらを重視するのがよいでしょう。
5-5.水槽内レイアウト
産卵床に流木を活用するとよいです。 不揃いな自然な形は、それぞれのペアが好みの場所を選ぶ権利を与えます。 実はこれがかなりスムーズです。 ペアリングするまでの弱者側の逃げ場としては、流木にミクロソルムなどを活着させ、縦のストラクチャーを意識し水槽内全体の構成を考えます。 同時に底床付近の水の通りやすさは常に考慮し配置するのがコツです。
6.アピストグラマを飼育する上でのワンポイント
アピスト飼育を楽しんでいく中で、もっと発色を良くしたい、もっとキレイな体型でキープしたい、そしてできればヒレを上手く伸ばしてあげたい、などと次なる欲がつきません。 ここから上の飼育レベルを目指すには、水槽のコンディションに対する強い意識が必要となってきます。
6-1.水換え方法
これまでは、未知なるアピストという魚を自宅水槽に迎え入れ、そして問題なく飼育できるというところまで。
ここからはそれをクリアした後、そうした状況からのステップアップです。
「現状のコンディションより一歩上」ってなんだ、と常々意識するようになります。
アピストにおいて一番のコツとしては、「水換えて満足しているのは飼育者なのかアピストなのか!?」という意識を常にできるようになることです。
振り返り、落ち葉が流されない水流エリアで棲息しているアピストグラマは、頻繁な換水を嫌う傾向にあります。
ルーチンで行う「週一回 1/3量」の換水がマイナスに作用することが多く、言わば「今週は換水しない」というのも管理のひとつであることを知ること。
ステップアップできるかどうか、ひとつの壁になるのがここです。
6-2.エサの選び方
先述しましたがエサはブラインシュリンプをわかして与えるのがベスト。人工飼料でも良いですが、上を目指したいならブラインシュリンプを給餌するのが良いでしょう。
6-3.フィルターの選び方
使用器材としては、使い慣れているモノを使ってゆくのがベターで、エーハイム製品であればフィルターのチョイスは「EHEIMアクア60」あたりが無難です。
アピストに限っては30cm水槽から60cm水槽に対応できます。
ペアで飼育することが多いアピストにおいては、不要な菌が増殖する可能性を高めてしまうような大きすぎるろ過容積は必要ありません。
水草水槽での飼育もアピストには向いていて、そこでエーハイムの外部式フィルターを使っているならそのままでよし。
新規に設置するなら、ろ材はエーハイムメックだけにして、中のウールは入れないで使用するのが良いです。
なぜなら給餌したブラインシュリンプがフィルターを通過しても、水槽内にまた戻るからです。
メックだけでもある程度の物理ろ過は働くため、ウールを入れないデメリットは意外に少ないです。
6-4.水槽のコンディションを意識する
この水槽は立ち上げてからどのぐらいの時間が経過しているかという意識。ここもキーとなります。
立ち上げ後1か月なのか、半年なのか、1年なのか、それぞれに異なる管理の仕方が必要になってきます。
慌てて換水をすることで立ち上がりかけていたろ過を台無しにしてしまうこともあります。
設置してからの経過期間によってフィルターのろ過能力も大きく異なります。
せっかく活躍してくれているろ材をルーチンの作業で洗うことで、みすみす能力ダウンを招いているという事、ろ材を洗うスパンを伸ばすことでさらに上のステージが見られると知っておくことが大切です。
7.アピストグラマの繁殖方法
アピストグラマの繁殖を目指す上で必要な準備、産卵後の対応、稚魚の育成にはそれぞれ押さえておきたいポイントがあります。
7-1.アピストグラマを繁殖させる準備
飼育はできている、だけどいまいち仔取りが上手くゆかない。
実は先述した水槽のコンディションを意識できるようになると、次のステップもまもなくして解決できてしまいます。
道具を選んだら、次は使いこなすこと。コツとしてはそれらを「時間軸の上にのせる」こと。
どういうことかというと、アピストを飼いながらバクテリアもキープしていることを常に意識することが大事ということです。
安定した水槽のコンディションは、次第に魚の振る舞いや状況で見て取れます。
魚の飼育経験が長い人にとっては、今飼育している魚が調子よさそうかどうか、元気かどうか、ということは見ていると自然と感じられるものです。
特に意識せずとも不意に実感できていたりします。
ここは自分の眼を信じて、その状況把握のためにアピストの観察時間を増やすようにします。
未知の魚であるのなら目の前の振る舞いが良いのか悪いのか、その場では判断つきにくいこともあるでしょう。
こうして良いコンディションをキープできれば特別なことはしなくても自然と繁殖は成功に近づきます。
7-2.初めて水槽で繁殖が見られるまで
導入後3週間以上、無事に経過していれば程なくして産卵までこぎ着けることができるでしょう。 ♀は産卵場所もしくは稚魚がいる場所に幾度となく戻り、見張りを続けているので、大事に飼育している魚の変化はじきに感じ取れるようになります。 一方で、せっかく産卵していても無精卵だったり気付かないうちに♀が卵を処理してしまっていることもあります。 「なかなか産んでくれない」という声もたいていの場合は産卵前後の雌雄の行動変化に目が慣れていないためです。
7-3.産卵したあとの対応
産卵を終えるとその後の飼育者の特別なケアなどは必要なく、基本的にペア任せで良いでしょう。
せまい水槽での飼育では、雌雄の一方がやられてしまうこともあるので、日々の観察を怠らず変化があったら別水槽に分けてあげるなどの処置をします。
せっかく産んでも卵が徐々になくなったり、稚魚の減少が時折見られますが、健康であれば約3週間後に再び産卵をはじめることが多いので、今回ダメであっても気を落とさず、すぐさま今やっておくべき管理を優先して次に備えておくのが賢明です。
稚魚が減ってしまうなど上手くゆかないときは、水槽のコンディションがいまいちだったと考え、結果がすべてととらえながら「その時」を待つ感じです。
期待もしていなかったのだけれど順調に推移することもありますから、それはまた「良い結果」として受け止め、ここまで来る水槽のコンディションや状況などを振り返ることがスムーズなステップアップにつながります。
7-4.稚魚の育成方法
稚魚が産まれた後は、親と同様、ブラインシュリンプをわかして与え、日々の管理も同じ方法で構いません。 ただ時の経過でこどもたちもサイズアップし、給餌量がどうしても増えがちです。 水槽の容積やフィルター規模を考えつつ、許容を超えそうであれば何らか処置してゆくことも後々考えてゆきます。
8.アピストグラマを迎え入れるコツ
入手したアピストが産卵し稚魚を連れる。
入手時より見違えて日々キレイに変化してゆく、そんなさまを目の当たりにすると、「次の1ペア」がついつい気になり始めます。
あらためて、情報検索するなどして模索し始めます。
記載種・未記載種含めるとアピストの種類は100を優に超え、種により入荷のタイミングや回数はまちまちですが、年間を通してさまざまな種類が輸入されています。ただ流通のメインフィッシュではなく、もっぱらおまけでやって来る魚種であるため欲しいときに市場で容易に入手できるとは限らないのが難点だったりします。とは言え、時季になると毎年やって来てくれる種類も少なくなく、専門店の関係者とコミュニケーションを上手く取りながらその時を待ち、迎え入れる流れとなります。
加えていつくるか分からないアピストたちのために事前に迎え入れるための水槽を準備しておくことも大切です。
9.あとがき
長年アピストの飼育を続けている方々は、現地の生息エリアの情報を何かしら持っている。
飽くなき追求はグーグルマップをマックスまで拡大し、その川の雰囲気を得ようとまでする。
筆者はかつて4度ほどアピストのふるさとであるブラジルに赴き、水辺で彼らに直接ふれてきたことがあるが、多くのマニアにとってもそのために時間を捻出し南米に出向くことは容易ではない。
今は日本に居ながらにして現地情報を探る手立てもあるのが幸いである。
現地のアピストたちを探すにはまず浅瀬の落ち葉があるところを見つけるところから始まった。
各所で見てきた印象では、完全な止水域には姿を見いだせず、必ずわずかな水の移動が見られるところが多かった。
実際のところ、上からアピストが見えるわけではなく、落ち葉ごとすくい上げ葉をめくってゆくと魚がはねる感じで彼らと出合うことができた。
そうした現地経験をふまえ、日本での水槽の中でアピストをより良く楽しむ手法などを長年追いかけてきたが、ここまで来ると魚よりむしろ、その魚種を楽しみ心熱く悩める趣味人との交流が最も楽しみなことになっていた。
記事執筆:志藤 範行