紅の蛇 ベニナメラ


 

海外で『世界で最も美しい蛇』と謳われるベニナメラを紹介します。



ベニナメラとは?

ベニナメラ Oreocryptophis porphyraceusは、中国から台湾、マレーシア、インドネシア、ラオス、ミャンマー、ブータン、インドなどに生息するナミヘビの仲間です。全長70cm〜100cmほどの小型種ですが、名前の通り美しい紅色をしています。

野生下では主に標高800m以上の涼しい森林に生息しており、半地中性でネズミやモグラなどの小型哺乳類を捕食していると考えられています。かつてベニナメラはナメラ属Elapheに含まれていましたが、2002年以降は独立したベニナメラ属Oreocryptophisとして扱われる事が多いようです。 現在ベニナメラの仲間は1種6亜種〜8亜種に分類されていますが、研究者によって意見が分かれているだけでなく、近年も新亜種と思われるベニナメラが各地で発見されているそうです。

ベニナメラの仲間は、ペットとしては比較的新しい種類です。かつては“幻のヘビ”と言われるほど希少なヘビで、飼育情報もほとんどありませんでしたが、2000年頃から欧米での繁殖例が聞かれるようになり、日本には2010年頃よりコンスタントに輸入され始めました。

 

最も古くから流通しているタイリクベニナメラの幼体

ベニナメラの仲間たち

ベニナメラの亜種については、研究者によって意見が異なる場合があり、さらには個体差もあるため判別は容易ではありません。内容に一部不確実な部分があるかもしれませんが、以下に代表的なものを紹介します。


ベニナメラ O.p.porphyraceus

基亜種。インド、タイ北西部、中国南部、ミャンマーなどに分布していますが、ほとんど情報がありません。


中国南西部で採集されたとされるベニナメラ。基亜種である可能性があります。

タイベニナメラ O.p.coxyi

別名コクシーベニナメラ。タイ北東部に分布しています。最も美しいベニナメラの一つと言われています。欧米などで繁殖された個体が比較的コンスタントに流通します。


朱色に黒いストライプが美しいタイベニナメラ。最も人気の高い亜種です。

マレーベニナメラ O.p.laticincta

別名ヒロオビベニナメラ。マレーシアとインドネシア(スマトラ島)に分布しています。最も濃い紅色が発色する亜種です。欧米などで繁殖された個体が比較的コンスタントに流通します。


濃い紅色が美しいマレーベニナメラ。こちらも非常に人気の高い亜種です。

ユンナンベニナメラ O.p.pulchra

中国西南部に分布しています。比較的近年になって流通したベニナメラです。欧米などで繁殖された個体が比較的コンスタントに流通します。


ユンナンベニナメラ。淡い朱色に琥珀色のバンド模様が美しい亜種です。

タイリクベニナメラ O.p.vaillanti

別名チュウゴクベニナメラ。中国東部、ベトナム、ラオスに分布しています。ワイン色の、落ち着いた色彩をした亜種です。最も古くから流通しているベニナメラでしたが、近年は流通量が減りつつあります。


他亜種ほどの派手さはありませんが、落ち着いた美しさがあります。

クロオビベニナメラ O.p.nigrofasciata

中国南部(香港周辺)、ベトナムの一部に分布するとされていますが、現在はタイリクベニナメラの地域個体群として扱われる場合もあるようです。流通は希です。


香港周辺で採集され、クロオビベニナメラとして流通した個体です。

ハイナンベニナメラ O.p.hainana

海南島に分布するとされていますが、現在はタイリクベニナメラの地域個体群として扱われる場合もあるようです。流通は非常に希です。


海南島で採集されたとされるベニナメラ。まだ幼体なので、色彩は変化するでしょう。

タイワンベニナメラ O.p.kawakamii

別名カワカミベニナメラ。台湾に分布するとされていますが、現在はタイリクベニナメラの地域個体群として扱われる場合もあるようです。流通はほとんどありません。


台湾で採集されたとされるベニナメラ。情報が少ない亜種で、詳細は不明です。

ハイブリッド O.p.coxyi×O.p.laticincta

タイベニナメラとマレーベニナメラの亜種間交雑種です。色彩はマレーベニナメラ、模様は両種の中間型となっています。


ハイブリッドも海外で少数ながら作出されています。

ベニナメラの生態

ベニナメラの色彩について

タイベニナメラを除き、ベニナメラの色彩は成長に伴い変化します。個体差もありますが、多くの個体は約2年で成体の色彩になるようです。例として、マレーベニナメラの幼体には幅広いオレンジ色のバンド模様がありますが、成長に伴い紅色になります。 ユンナンベニナメラも幼体には黒いバンド模様がありますが、成長に伴い中心部の色が抜け、2年ほどで薄紅色と琥珀色のバンド柄になります。


マレーベニナメラの幼体

ユンナンベニナメラの幼体

ベニナメラの擬態

ベニナメラの美しい色彩は、同地域に生息するベニヘビの仲間に擬態していると考えられています。ベニヘビの仲間は東南アジアに分布する小型のヘビで、どれも非常に美しい色彩をしていますが、 実は有毒なコブラ科に分類されており、強い神経毒をもっています(人間には害が無いとされています)。なお、日本にはベニナメラは分布していませんが、ベニヘビの仲間は南西諸島に数種類が分布しています。


ベニヘビの仲間。性質はおとなしいですが、強い神経毒を持ちます(海南島にて撮影)

八重山に生息するイワサキワモンベニヘビ。
発見数は少なく、希少なヘビです(石垣島にて撮影)

ベニナメラの性質

ベニナメラは神経質で攻撃的な個体がほとんどです。ですから、ハンドリングはできません。あまり構い過ぎるとストレスで拒食する場合もあります。なるべく静かな環境で飼育しましょう。


ユンナンベニナメラの幼体。ベニナメラは神経質で攻撃的な一面があります。

ベニナメラの飼育方法

ケージと飼育環境

ベニナメラを飼育する際、重要なのが温度管理です。ベニナメラは冷涼な環境を好むので、飼育温度は23℃〜27℃がよいでしょう。夏場でも28℃を超えないように注意が必要です。飼育環境は一般的なヘビとさほど変わりありませんが、 ウェットシェルターは必ず設置し、水も常に清潔なものを用意します。ベニナメラは皮膚病にかかりやすい傾向があるので、床材は交換しやすいものが良いでしょう。吸収性が良く、凹凸のあるキッチンペーパーなどがおすすめです。 水苔やピートモスなども使用できますが、不潔になりやすいです。


ベニナメラの飼育ケージ例。ウェットシェルター内はジメッとしていますが、そこ以外は乾燥しています。とにかくシンプルに、清掃は素早く、ヘビにストレスをかけない管理をモットーにしています。

餌について

ベニナメラの餌は体のサイズに合ったマウスを与えますが、あまり口が大きくなさそうなので、通常よりも若干小さなサイズがよいでしょう。給餌回数は、幼体ならば1週間に1〜2回。成体ならば1週間に1回ほど。一度に多量に与えるのでは無く、こまめに給餌するほうが無難です。 なお、給餌方法ですが、前述したように、ベニナメラは神経質で攻撃的な一面があるので、ピンセットなどで与えると、それに咬み付いて口内を傷つけてしまう恐れがあります。ヘビの近くに餌を設置し、自力で食べさせる“置き餌”の方法が良いでしょう。


ユンナンベニナメラ。ベニナメラの飼育は一筋縄ではいきませんが、手間をかける価値のあるヘビです。


ベニナメラ特集。いかがでしたでしょうか?・・・ベニナメラは意外なほど情報が少なく、苦労しました。特に分類に関しては、筆者自身が一部の亜種を除き、全てタイリクベニナメラのシノニム(同物異名)だと考えていました。 今回、いろいろと調べながら、ベニナメラの事を復習させていただきました。そして、彼らの奥の深さを再認識しました。美しく、謎多きベニナメラは・・・まさにアジアの至宝です。



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