伝説か?真実か?謎多き大蛇 オオカサントウ


 

ナミヘビ科最大といわれるオオカサントウ。
一般に伝わっている情報が正しければ、
これでもまだまだ小さなサイズという事になります。



オオカサントウとは?

オオカサントウ Zaocys carinata (もしくは Ptyas carinata ) とは、ビルマ、中国(雲南省)、スマトラ、ジャワ、ボルネオ、ラオス、フィリピン(パラワン島)、シンガポール、タイ、ベトナム、カンボジアに分布するとされる、 ナミヘビ科カサントウ属(もしくはナンダ属)に含まれるヘビで、キールカサントウの別名を持ち、最大で4mに達する世界最大のナミヘビであると言われていますが、その実態はいまだ多くの謎を残しています。今回はこのオオカサントウについて、わかっていることを紹介したいと思います。


オオカサントウの頭部。
大きな眼から鋭い眼光を放っています。

名前の由来

オオカサントウの属名である Zaocys とは“非常に素早い”という意味であり、カサントウの仲間の動きを示しています。種小名である Carinata とは“キール(竜骨)”という意味であり、オオカサントウの鱗にある隆起を示しているとされており、確かに背面の正中線上にキールが存在しています。

オオカサントウは漢字表記では『大過山刀』であり、これは胴部の断面が三角形であることを刀に見立てて名付けられたと考えられます。


オオカサントウの背面には確かにキールが存在しますが、
さほど強くはありません。言われなければ見逃してしまいそうです。

 


飼育方法

飼育環境

ほとんど飼育情報の無い種類なので、私の知っている範囲で紹介させていただきます。オオカサントウは野生下では低地の森林や草原などで発見例があり、主に地上性と考えられますが、樹上で発見される事もあるようです。

大型種であるだけでなく、体も硬いので、広い飼育スペースが必要になります。水に浸かるのも好きなようなので、水入れもヘビがゆったりと浸かれるような大きな物が必要です(大きめのプラケースやコンテナボックスなどが良いでしょう)。 なお、水場と陸場はしっかりと分かれていた方がよさそうなので、水入れはヘビにひっくり返されないよう注意しましょう。床材には大粒のバークチップなどが適していますが、新聞紙などでも問題ありません。

木登りはあまり得意そうではありませんが、大きめのコルクバーグなどを設置し、そこに紫外線ライトなどを当ててやると、午前中はそこに寝そべっている姿を観察できます。

大きめのシェルターを設置すると、その中に入って落ち着いている場合があります。私は段ボールを改造して(入口を開けただけですが)使用していました。ただ、シェルターの中で糞をされる度に作り直さねばなりませんが…。

オオカサントウに限ったことではありませんが、大型のナミヘビは力が強く、さらに汚しやすいため、あまり細かいレイアウトは行わず、シンプルで管理しやすいケージが良いでしょう。 なお、オオカサントウは非常に目が良く、神経質な一面があるので、飼育開始当初はケージの前面をシーツなどで覆ってやり、ヘビが落ち着ける環境を用意してやりましょう。


水に浸かるオオカサントウ。約2mの個体。
 


オオカサントウのエサ

オオカサントウの食性はよくわかっていませんが、野外ではカエル、トカゲ、ヘビ、鳥類、ネズミなどを捕食していると考えられています。

カサントウの仲間は、食性が成長に伴い変化することが知られています。幼体時はカエルなどの両生類を好み、大型になるとネズミなど小哺乳類を捕食するようになります。飼育下ではこのエサの切り替えが難しい場合があります。

私の経験では、オオカサントウのエサは個体によってかなり差があるような気がします。個体によっては問題無くマウスを食べるものもいれば、ダルマガエルなどの両生類を好むものもいます。中にはウズラばかり欲する個体や、 他種のヘビを食べる個体もいました。様々なエサを与え、個体の好みを把握し、そこからマウスなどに切り替えていく必要があるかも知れません。なお、カサントウの仲間は消化力がさほど強くなさそうな気がするので、 マウスを与える場合でも、あまり大きなものは使用しない方が良いかも知れません(私はマウスの尾を切り落とし、脊椎に切れ目を入れて与えていました)。


野生下では何を主食にしているのでしょうね。
 


オオカサントウの性質

オオカサントウは若干神経質な一面があり、個体によっては口を大きく開けて威嚇してきます。しかしながら、実際にハンドリングしてみると(特にする必要もありませんが)、 咬み付いてくるような事はあまりありません。もっとも野生動物の危険性はその体の大きさに比例すると言われますから、咬まれればそれなりに痛いとは思います。


一度持ってしまえば、大人しい個体が多いような気がします。
 


分布域の謎

オオカサントウは東南アジアに幅広く分布しているとされており、その基準産地はボルネオとされています。しかしながら、私は何度もボルネオへ行きましたが、野外でも市場でも(東南アジアの市場では良くヘビが食用にされています)見た事がありません。 現地の研究者に聞いても「見た事が無い。数例の報告があるだけだ」と言っていました。正確な情報は少ないようです。そして、同様のことが他の地域でも言えます。こんな大きなヘビなのに正確な情報が少ないという事を奇異に感じるかも知れませんが、 この背景には他のカサントウの仲間も東南アジアに幅広く分布していること。そして、一般に見てオオカサントウによく似た色彩のヘビが少なからず存在していることが影響しているのかも知れません。



色彩の謎

オオカサントウの色彩についてですが、実は『大型個体は全身が黒くなる』という噂があります。実際に10年以上前に出版されたとある書籍にオオカサントウとして巨大な黒いヘビが紹介されていました(写真が小さく、確実な種の同定は出来ませんでした)。 また、マレーシアやタイ周辺でも全身が黒っぽいオオカサントウが確認されています(全長1mほどの個体)。しかしながら、私は2009年以降、6頭のオオカサントウを扱いましたが(約1.5〜2.4mの個体を5頭、幼蛇を1頭)、全て同じ色彩でした。 確かにオオカサントウの色彩は体の前半と後半で大きく異なります(前半はライトブラウン。後半は黒色)。もっと大きな個体は黒く変化するのでしょうか?それとも、地域によって色彩に差があるのでしょうか?または、未知の隠蔽種がいるのでしょうか? ちなみに、今回紹介させて頂いたオオカサントウは中国南西部で採集された個体です。



サイズの謎

先述したとおり、オオカサントウはナミヘビ科最大種と言われており、その大きさは4mに達するそうです。4m!これは凄いことです。本当にそんな大きさになるのでしょうか?

以前、中国の市場で特大の瓶に漬けこまれた大きなナミヘビを見た事がありました。薬品に漬けられているせいか、色彩がはっきりしなかったので店主に尋ねると「烏梢蛇(カサントウの意)、20年モノ」との事でした。実際に計測したわけではありませんが、 3m以上はあったような気がします。また、現地の研究者に聞いてみると「昔は4mを超える個体の記録があったが、最近では3mを超えていれば大きい方だ」とも言われました。3mでも充分凄いんですが…。



伝説は続く

世界最大のナミヘビと名高いオオカサントウは、永らく愛好家の間では伝説的なヘビでした。実際、アジアで2mを超えるナミヘビというのは非常に珍しいです。例えば、日本のアオダイショウは多くの図鑑で2mを超えると記されていますが、私は見た事がありません。 今まで何百というアオダイショウを見てきたと思いますが、自己ベストは180pです。台湾や中国でナンダやシュウダを見つけた事もありますが、やはり2mには僅かに届きませんでした。アメリカ大陸など、海外でも大きなインディゴヘビやブルスネークなどを野外で観察しましたが、 2mを超える個体を見た事はほとんどありません。もちろん図鑑に掲載されている『最大記録サイズ』と『平均サイズ』には大きな差があるのでしょうが、オオカサントウの4mという記録は桁外れです。

現在、地球環境は急激に変化しており、あらゆる動物のサイズが小さくなっていると言われています。もしかしたら、オオカサントウの4mというサイズも、過去になりつつあるのかもしれませんが・・・機会があれば、是非とも巨大個体に拝謁したいものです。


一部の愛好家にとって伝説の蛇であったオオカサントウ。
2009年に初来日したものの、その実態はいまだ謎のベールで覆われています。
 


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