黒い!カッコいい!宝くじ要素アリ!カントンクサガメ




カントンクサガメとは

 カントンクサガメMauremys nigricansとは中国(広東省、広西チワン族自治区に自然分布しますが、海南島と台湾にも移入されています)とベトナム北部(近年は発見例が無く、絶滅した可能性が示唆されています)に分布する水棲カメの仲間です。

名前からもわかるように、クサガメM.reevesiiに近縁で摸式産地(新しい生物種が発見・記載された際に、その基準となった標本が採集された場所)が広東省であった事から命名されました。 なお、種小名のnigricansとは【黒くなる】を意味し、本種の体色を表していますが、本来はミナミイシガメM.muticaを指す学名であるとされ、本種はClemmys kwangtungensisと呼ばれていました(Clemmysとは1960年代以前まで使用されていた属名で現在アメリカイシガメ属を意味します)。

しかし、後にC.nigricansがミナミイシガメではなく本種と判明しC. kwangtungensisよりも記載が古いことから、後者はシノニムとなり抹消されることになりました(同一の種に別々の人物が異なる学名を命名して記載論文を発表した場合、原則として先に発表された学名が有効となります。これを先取権の原則と言います)。

英名では

  • “Kwangtung River Turtle”
  • “Guangdong River Turtle”
  • “Black-Necked Pond Turtle”
  • “Red-necked Pond Turtle”
  • “Redneck Pond Turtle”
  • “Chinese Red-necked Turtle”
  • “Chinese Dumb-headed Turtle”

などと呼ばれています。

特徴

雄は甲長10〜18pですが、雌はより大きくなり20〜25pまで成長します(最大甲長は29.8pとされています)。 甲羅はドーム状に盛り上がり、椎甲板と助甲板にはキールが入りますが、後者は弱く、成体ではほぼ目立たなくなります。背甲は黒色ですが、幼体時の腹甲は鮮やかな朱色〜橙色です(成長するにつれ色は薄れていきます)。 頭部や四肢、尾部は黒褐色で幼体時は灰白色〜黄白色の細いストライプ模様が数本入りますが、成長にともない雌雄ともにメラニズム(黒化)を起こすものは少なくありません(頭部が大きく発達するものもいます。特に野生個体の雌に多く見られます)。 また、稀に雄では亜成体以降に頭部や四肢、甲羅に鮮やかな赤色や橙色を発色するものも存在します。


背甲。幼体時は甲縁部が広がっていますが、成長にともない丸みを帯びてきます。
腹甲。幼体時は鮮やかな朱色〜橙色です。
幼体時は甲羅にキールが入りますが、成長にともないドーム型になります。
頭部には細いストライプ模様が入ります。


生態

野生下での生態に不明な部分はまだ多いものの、主に標高500m以下の流れの緩やかな河川や渓流に生息し、水草や水生昆虫、魚類、ミミズ、節足動物、水面に落ちた果実などを食べていることが明らかになっています。 冬季は動きが鈍くなり泥の中や水底に溜まった落葉の中に潜っていることはありますが、完全な冬眠は行わないと考えられています。

繁殖形態は卵生で雌は一度に1〜14個(平均8個)の卵を年に1〜3回地中に巣穴を掘って産卵し、その際には毎回2つの巣穴を掘ることが知られています(はっきりした理由はわかっていませんが、卵を狙う天敵を混乱させるための擬巣の役割を果たしているのかもしれません)。

特徴的な外見ですが、分類学的にはちょっとややこしい背景をもつカメさんです。


飼育

飼育の基本はヒラチズガメの項目をご参照ください。注意点としては、本種も小松菜などの葉野菜は食べますが、やや肉食寄りであること、他個体の尾部などを齧(かじ)ることが多いので多頭飼育に向いていないことなどが挙げられます。



そのままでもカッコいいけど、赤くなったら最高!

シックな黒色がカッコいいカントンクサガメですが、雄では稀に四肢や頭部、場合によっては甲羅までも鮮やかな橙色や赤色を発色する個体が見られます。 甲長10p超えたあたりから頭部の模様や鼻先が鮮やかになり始めたらいい意味で要注意です。 「本当に同じ種類?」と思うくらい美しく鮮やかなカメに変化していきます(そうなった場合は市場価値もグッと上がります)。ある意味、宝くじみたいなカメと言えるかもしれません。

ちなみに、カントンクサガメは1990年代までは少ないながらも輸入が見られましたが、2015年頃に原産国である中国で価格が高騰し、前述の赤色に変化した個体などはちょっといい自動車が買えるくらいの値段で取引されていました(香港で本種の黄色色素減退と思われる色彩変異個体が日本円にして約3000万円で売られていたのを見たときはドン引きしました)。

その後しばらく日本のペットトレードでは目にする機会が少なくなっていましたが、近年になり繁殖個体の流通が見られるようになりました。



迫る脅威。だからこそ幸せに生きてもらいたい

最後に、ちょっと現実的というか、ネガティブな内容になりますが、アジア全域でカメ類の50%以上がIUCN(国際自然保護連合)により絶滅危惧IA類または絶滅危惧IB類に指定されており、絶滅の危機に瀕しています。本種もカメ保護連合(Turtles Conservation Coalition)における『世界で最も絶滅の危機に瀕しているカメと淡水ガメ- 2025年度版』に取り挙げられており、1930年代以降野外での観察例はほとんどないとされています。

その理由は開発による生息地の喪失や食用・愛玩用における乱獲とされています。また、本種は同属の他のカメ類と容易に交雑するため、遺伝的な懸念も高まっています(クサガメやニホンイシガメなどその他のカメ類を守るためにも、決して野外に放してはなりません)。 現在流通しているものは飼育下で繁殖された個体であるため野生個体への影響はないとされていますが「野生では消えつつある希少種」という意識は重要であるといえるでしょう。

さらに超ネガティブなことを言うと、本種を含めいくつかのカメ達は例え飼育下で殖えたとしても彼らが元いた生息地に戻すことは難しいと考えられており(野生に戻されても環境が整っていないと意味がありません。また、戻されても人間に捕まってしまう可能性が高いです)、そう遠くない将来には図鑑や動物園などでしか見られなくなるかもしれません。 本当に寂しい未来ですし、同じ人間としてカメたちには謝罪の言葉もありません。

しかし、だからこそ、飼育下のカメたちには安全かつ快適な環境で幸せに亀生を全うさせる責務が飼育者にはあると私たちは考えています。

アジアに分布するカメ類の多くは絶滅の危機に瀕しており、本種もその一つです。野生にはもう帰る場所はないかもしれません。だからこそ、飼育下だけでも彼らに快適に長生きしてもらえるよう、飼育者は全力を尽くす責務があるのではないでしょうか?


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