This is チズガメ! ヒラチズガメ

ヒラチズガメとは
ヒラチズガメGraptemys geographicaとはアメリカ合衆国東部とカナダ南東部に分布する水棲ガメの仲間です。チズガメ属はアメリカ合衆国を中心に14種が分布し、同国を代表するカメの1つであると言えますが、本種は約800万〜600万年前と最も初期に分化した種であり、チズガメ種の摸式種(属の代表として指定されている種。タイプ種とも)でもあります。
なお、属名のGraptemysとは『刻まれた』を意味する【graptos】と『(淡水の)カメ』を意味する【emys】が組み合わさったものであります。これは本属の特徴的な甲羅の模様を表しており、本種の種小名であるgeographicaとは『地図』を意味します。学名からも本種がチズガメの代表的な存在であることがわかりますね。英名では“Northern Map Turtle”や “Common Map Turtle”と呼ばれます。
特徴
雄は甲長10〜15pですが、雌はより大きくなり18〜25pまで成長します(最大記録は27pとされています)。チズガメ属の中では甲羅は最も扁平で椎甲板に一本の弱いキールが入る程度です。 幼体時の甲羅はオリーブ色〜鼠色で各甲板にはうっすらと細い渦巻模様が入りますが、成長にともない灰褐色となり、模様も消失するものが多いです。しかしながら、後頭部の左右に一対ある長三角形〜楕円形の黄色い斑紋や、頸部や四肢に多数入る黄色〜黄白色の細いストライプ模様は成長しても残ります。 腹甲は黄色〜白色で各甲板の繋ぎ目が暗褐色に染まりますが、それ以外に目立つ模様はありません。
生態
野生下では流れの緩やかな河川や湖、池に生息し、成体は特に基質が岩や石で水深のやや深い環境を好み、水面から突き出した倒木や岩の上で日光浴を行う姿がよく観察されていますが、幼体は川岸や湖畔の浅い止水域に見られ、特に水生植物などが繁茂した場所を好みます。
食性は雑食で水草や水に落ちた果実、貝類、ミミズ、昆虫、魚類、動物の死骸など様々なものを食べます(成体の雌は特に貝類を好みますが、雄は昆虫をよく食べているようです)。分布域南部の個体群はほぼ一年中活動するようですが、北部の個体群は10月〜翌年4月まで水底に溜まった落葉や倒木の隙間に潜るようにして冬眠を行います。
繁殖形態は卵生で、雌は5〜7月頃に上陸し、地中に掘られた巣穴に8〜20個の卵を数回に別けて産卵します。なお、卵は60〜80日ほどで孵化しますが、地中でそのまま越冬し、翌年の春に現れる仔亀も見られます。
飼育について
ヒラチズガメの飼育について簡単に説明します。
ケージについて
体のサイズに合った水槽などが適しています。幼体ならば(幅)45 ×(奥行)24 ×(高さ)30cm 〜(幅)60 ×(奥行)30 ×(高さ)36cmでも飼育は可能ですが、成体では(幅)90 ×(奥行)45 ×(高さ)45cmくらいはあったほうが良いでしょう(広ければなおよいです)。
レイアウトについて
基本的には水と日光浴を行う陸場だけで構いません。底砂なども必要ありません。濾過装置などはあっても構いませんが、カメは汚しやすいため小まめに水換えをしたほうがよいと思います。陸場はカメが登りやすい傾斜のある石などが適しています(水を吸いやすい煉瓦などの人工物はあまり適していません)。 水深は幼体は甲羅の厚さの2倍以内とし(カメが四肢を付いた状態で首を伸ばして難なく呼吸できる深さ)、成体は20〜30pの水深でしっかりと泳げる環境が理想的です。
照明について
爬虫類専用に開発されたバスキングランプを陸場に照射しましょう。照射時間は一日12〜14時間が目安です(あまりお勧めしませんが、幼体を一気に成長させたい場合は広いケージで飼育し、照明を20〜24時間つけっぱなしにして常に餌を与え、水換えを小まめに行うという荒技もあります)。
水温と気温について
水温は、幼体は26〜28℃、成体ならば25℃前後に設定し、バスキングランプ直下の陸場は30〜35℃に設定しましょう
水質について
チズガメ属の一部はアルカリ性の水を好みますが、本種に関してはあまり神経質になる必要はありません。塩素を抜いた水道水で構いません。
餌について
チズガメ属の飼育において最も重要なのが餌です。主なメニューは小松菜、人工飼料、昆虫などですが、最も多く与えるべきは小松菜です。小松菜の葉は常に水場に浮いているような状況で、毎日人工飼料を食べるだけ与えるのがベストです。 小松菜を与えることにより甲羅がカチっと丈夫に育ちます(水面に浮かぶ葉はシェルターにもなります)。こう言うと変に聞こえるかもしれませんが、彼らは“水の中のリクガメ”ぐらいの気持ちで育てるのが正しいです。ガンガン小松菜を与えましょう!
多頭飼育について
チズガメの仲間は多頭飼育をしても他種(アカミミガメ属やニオイガメ属など)に比べると問題は起こりにくいです(前述したように常に小松菜が常に浮いていれば餌不足もありません)。しかしながら、何らかの理由で傷などが出来た際に集団で
管理について
ケージの大きさや濾過の有無によって異なりますが、2日に1回を目安に全換水しましょう。冬場は水温の変化にも注意が必要です。
これぞチズガメ!
チズガメといえばミシシッピチズガメやフトマユチズガメ、ニセチズガメが一般的で(すべてグレーマップと呼ばれています)、憧れの存在といえば甲板に鮮やかな黄色の模様が入るワモンチズガメやキマダラチズガメでしょう。それはわかります。当然です。 しかし、私はあえてその対極に存在するかのようなヒラチズガメを推したいです。進化・分類的には「これぞチズガメ!」と言える存在ではありますが、派手さはありません。むしろ激渋です。しかし、見れば見るほど、何とも言えない魅力があります。 かつてイシガメ属に含まれるアンナンガメには「特徴がないのが特徴だ」という上手い言い回しがありましたが、本種もそれに通ずるものがあると思います。本当に趣深い、素敵なカメさんなんです(上手く言語化出来ないのがもどかしいです)。
ちなみに、ヒラチズガメは最近までは珍しいカメであり(ミシシッピチズガメと混同されていた時期もありました)、他種に混じって極稀に輸入される程度でした。私を含め一部の愛好家は本種を見つける度に「やったー!」と雄叫びを上げていたものです。そして2006年にチズガメ属全種がワシントン条約V類に記載されたこともあり、2022年頃に欧米で繁殖された本種が流通するようになりました。
そう、実は愛玩用として長い歴史(1900年頃から愛玩用として取引されています)のあるチズガメ属の中でも、本種はある意味ニューフェイスなカメさんなんです(記載は1817年と属内で最も古いのですが)。
これから先、この素晴らしいカメさんが素敵な飼育者に出会い、多くの人々に愛されんことを願います。

















