【趣味のメダカ】 オーロラ幹之〜メダカ史に新たなページを刻む〜

この数年間ほどでメダカの表現型は非常に多岐に渡るようになった。楊貴妃メダカや幹之メダカなどの誕生に次ぐ進化の過程にあると言っても過言ではないだろう。 その背景には、あるメダカの誕生が大きく関与している。そのメダカこそが、オーロラ幹之という品種である。この品種は、他のメダカに比べ色素胞の数が少ないため、 腹膜の金属光沢や、鰓が透けて見え、それでいて幹之メダカ特有の体外光を有するというちょっと変わったメダカである。このメダカを一目見たとしても、最も熱いと言われる所以は分からないかもしれない。 しかしながら、このオーロラ幹之系統が、変わりメダカの未来をも変えようとしているのである。 では、具体的にどのような進化を遂げたのか、その一部をお話ししたい。

・ 多色ラメが誕生した(※ここでいうラメとは、鱗一枚一枚がキラキラと輝くことを指す)
多色ラメとは文字通り、複数の色に輝くラメ光のことである。それまでのラメ光というのは金魚や鯉がもつ銀鱗のように金属光沢をもつだけの単色光であった。 それに対しこの多色ラメは、虹のように七色に輝く。これは何故であろうか?この謎を紐解く前に、ラメについて解説したい。そもそも鱗がラメのように輝くのは、 鱗に虹色素胞が集中するためである。この現象は金魚や鯉などの魚でも見られ、その魚は銀鱗と呼ばれる。しかしながら単に虹色素胞が鱗に集中するだけでは鱗はこのように単色に輝くだけである。 ならば、虹色に輝く多色ラメはどのような機序のもと発現しているのか、それには『薄膜干渉』と呼ばれる物理現象が大きく関与していると考えられている。この現象に関して記述を始めると、 高校の物理の授業をしなければならないので、何故オーロラ幹之系統でこの現象が起きるのかについてのみ記述したい。



まずは色素胞が通常通り存在するメダカに光が当たった場合、どうなるか具体例を用いて解説する。



楊貴妃メダカの場合
表皮に黄色素胞が多く存在しているため、 赤〜黄色の光を特異的に反射して赤系の色を発する。
幹之メダカの場合
表皮に虹色素胞が多く存在しているため、緑〜青色の光を特異的に反射し、かつ金属光沢をもつ色を発する。


お分かり頂けただろうか。色素胞が通常どおり存在するメダカは特異的な色を発現させることができる。では、オーロラ幹之に光が当たった場合はどうなるのだろうか。 オーロラ幹之系統は、色素胞の数が少ないメダカであることは先にお話しした通り。 表皮に色素胞が少ないため、光はほとんど反射されることなく透過するのである。透過した先に鱗があった場合、その光は反射されるのだが、 ここで起こるのが『薄膜干渉』という現象で、反射された光と透過してきた光がぶつかることで七色の光を発するようになるのだ。 すなわち、オーロラ幹之系統がもつ色素胞が少ないという特徴のおかげで、この薄膜干渉が引き起こされた結果、多色ラメが誕生したのである。



・赤い幹之メダカ誕生へ一歩近づいた
数年前までは赤い幹之メダカは絶対に存在しないというのが通説で、多くの人がこの理論を疑っていなかった。 というのも、幹之メダカ特有の虹色素胞による金属光沢は他の色素胞の下層に存在するため、例えば楊貴妃のような朱赤色を発現させた場合には、 その色の下にあの金属光沢が全て隠れて見えなくなってしまうのである。一方、オーロラ幹之系統のメダカにおいては、色素胞が少ないため、 他の色素胞に覆われたとしても金属光沢を目にすることができる。例えるなら、厚いカーテンではなくレースのカーテンで遮光したような状態である。 この現象の発現が可能になったことで、幹之メダカの進化の可能性がいっきに広がった。これまでは不可能であった朱赤色や真っ黒、ぶち柄の幹之メダカの作出も夢ではないのである。

ただし、色素胞が少ない分、色の表現もまだまだ弱く、楊貴妃のような朱赤色をもった幹之メダカはまだ登場していない。 しかし、『黄幹之』という黄色い幹之メダカや、『煌』というより朱赤色に近い柿色と呼ばれる色を発する幹之メダカも現れ始めており、 多くの愛好家たちが次のステージを目指して今この瞬間も育種に励まれている。 全身が朱赤色の幹之メダカが誕生するのもそう遠い未来ではないような気がする。

・これまでにない様々な体色の表現が可能になった
読者の方の中には耳にタコが出来てしまった方がいらっしゃるかもしれないが、オーロラ幹之系統は、色素胞が少ないメダカである。 この品種が登場する前のメダカといえば、単色・ぶち柄・三色柄・紅白柄などが主であった。このような体色が悪いという訳ではなく、 オーロラ系統の血が入ることによって、それまでには無かった体色をもつメダカが現れるようになったのである。例えば、 頭部だけ朱赤色で他は墨に覆われるようなツートンカラーのメダカ、オーロラ幹之のような体色に多色ラメが乗り、頭部のみが黄色になるメダカなど枚挙に暇が無い。

このような表現が可能になったのはやはり、オーロラ幹之の色素胞が大きく影響しているのだろう。 この辺りの機序も明らかになっていないため、婉曲的な表現になってしまうことをお許し願いたい。

以上、3つの具体例だけではお伝えできないほどの魅力がまだまだオーロラ幹之には秘められている。 この系統無くして、今後の変わりめだかを語ることはできないのではないかと思う。ぜひ、このメダカを手に入れてその魅力を実感してもらいたい。 そして変わりメダカの新たな歴史に新たな1頁を、あなたの手で追加して欲しいと心から思う。









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