【趣味のメダカ】 天鳳累代記

天鳳

『天鳳』・・・神畑養魚ブリーディング部門にて、2018年、新たに作出されたメダカである。天女の舞と雷電を親とする血統で、 松井ヒレ長でありながらヒカリ体型をもち、体外光・ラメ光・ヒレ光・グアニン光の全てが発現する品種だ。今回は、この天鳳の魅力、そして作出に至るまでの作出秘話を書いていきたい。

天鳳
天鳳


【度肝を抜く表現型】

天鳳を作出するにあたり、まずイメージしたこと、それは多くの人々の度肝を抜く表現型。そこで思いついたのは、 いわゆる『全部乗せ』、冒頭で記述したとおり、松井ヒレ長+ヒカリ体型+体外光+ラメ光+ヒレ光+グアニン光の6種盛りである。 今になって思い返せば、あまりにも安直な考えであったと思うが、結果として良いメダカが完成したと思っている。



【種親を求めて】

前項でお話ししたとおり、作出したいメダカのイメージは固まった。この時点が2016年、天鳳誕生から実に2年も遡ることになる。 イメージこそ固まったものの、肝心の種親がなかなか見つからない。天鳳累代記は、着想の後、すぐに暗礁に乗り上げたのである。 「松井ヒレ長の特長をしっかり残しつつ、体外光も入れるとなると天女の舞を♂親にするのは確定として・・・♀親をどうするか・・・」という自問自答を繰り返す日々。 ベストな親候補と出会えるまで、この自問自答の日々はなんと、1年も続くこととなる。参考までに候補に挙がったメダカたちをご紹介しておく。『螺鈿光・ブラックラメヒカリ・天女・幹之ヒカリ体型・銀河・月虹・魔王・魔王(改)・宝鱗無双』などである。



【雷電との出会い】

2017年、ついに「これこそ!」と思える1匹のメダカと巡り合う。その名は『雷電』。青幹之ヒカリ体型の派生品種で、 頭部の強い体外光(頭光)と背ビレ・しりビレ・尾ビレの青いヒレ光が目を引くメダカである。この雷電こそ、♀親として追い求めてきた形質全てを備えていた。 そして、2017年10月ようやく交配を開始し、本格的な育種が始まった。



【累代記】

メダカフリークの皆さまならお分かりだと思うが、普通体型とそうでない体型(ex. ヒレ長)のメダカを交配させたときのF1は全て普通体型が生まれてくる。 これは、普通体型が遺伝的に優性であるためだ。さて、今回の交配パターンは、ヒレ長形質×ヒカリ形質、ともに劣性形質である。 F1でどのような形質のメダカが出てくるのか、非常に楽しみな交配であった。結果として出てきたF1個体はブルースターダストに良く似た普通体型の青ラメ幹之。 この時点で、ラメとヒレ光の形質はしっかりとF1個体に受け継がれており、F2に向けた交配に期待がもたれた。余談ではあるが、このF1個体の写真撮影をおこなっていなかった。記録として残しておくべきだったが、今となってはあとの祭りである。



F1同士の交配に用いる親には、次の4点を満たす個体を用いた。


  • @体外光がしっかり伸びている(スーパーないしフルボディ)
  • Aラメがより多い
  • Bヒレ光を有する
  • C目立ったクセや奇形が無い


天鳳F2

天鳳F2

これらの条件のもと、交配をおこなって得られたF2が写真に示すような個体である。この個体を天鳳プロトタイプと呼ぶこととする。 F2の段階で、松井ヒレ長およびヒカリ体型、両方の特徴をもつ個体が現れてくれた。もちろん、メンデルの法則に従って優性・劣性の比率が変わるため、 このような個体は1割未満であった。ちなみにF2で現れた個体の特徴は次の通り。


  • 『F1同様の普通体型』
  • 『雷電同様のヒカリ体型』
  • 『天女の舞にそっくりな松井ヒレ長幹之』
  • 『天鳳プロトタイプ』


さて、F2にて突破口は見えたものの、理想とする『天鳳』の姿には程遠い。体外光・ラメ・ヒレ光・ヒレの形状、 いずれをとっても非常に中途半端であった。これではとてもではないが、世に送り出すことは出来ない。やるべきことはただ一つ、 さらに特徴を洗練していくことだった。F3の採卵をおこなうにあたり、選択したのはF2個体同士の交配。F2個体とF0 / F1個体を交配する、 『戻し交配』をおこなうことも出来たが、F2個体が秘めているはずの眠った遺伝形質に賭けることにしたのだった。



この賭けが運良く的中する。F3個体群では、すべての個体が松井ヒレ長ヒカリ体型の形質を有するようになり、 これと同時に、目的とする体外光やヒレの大きさなどの特徴にも磨きがかかった(F3個体の写真に示すとおり、 F2に比べ、全体的に見栄えが良くなっている)。F4以降の累代については、最終的なイメージにより近い個体を親にする選抜育種の方針を採った。現在、天鳳の累代飼育はF7まで進んでいる。


天鳳F3
天鳳F3

【今後の展望】

F7まで進み、理想とする形に近づきつつある天鳳だが、まだゴールではない。思い描く最終形態は、全身が金属光沢に覆われる、 いわば熱帯魚のプラチナのようなメダカである。現在、幹之やラメメダカからの育種によってプラチナのようなメダカを作出する試みが盛んにおこなわれているが、 ここでは、この天鳳の可能性に賭けてみたいと思う。代を重ねるごとに輝きを増す天鳳の魅力をこれからも追求していきたい。









【趣味のメダカ】 メダカ生産とその秘訣〜養殖センターを大解剖〜

2009年、指宿養殖センターの創設とともに始まった、カミハタブリードメダカ生産。 現在に至るまで幾つもの成功と失敗を繰り返してきた。今回は、記念すべき『めだかこばなし』第一話と称し、 カミハタブリードメダカの生産風景と生産秘話をお伝えしていく。

【趣味のメダカ】 楊貴妃の深淵に迫る

2004年、かつて誰も目にしたことの無いようなメダカが世に現れた。 その名は、楊貴妃。燃えるような朱赤色の体色が唯一無二の特長である。 リリースされてから10年以上が経った今でもなお、赤系メダカの頂点に君臨し、人々を魅了し続けている。 今回は、そんな楊貴妃の奥深さに迫ってみたい。

【趣味のメダカ】 紅累代記

楊貴妃透明鱗メダカ、『紅(くれない)』。カミハタオリジナルメダカ作出の祖となったメダカである。 今回は、紅から始まった数世代に渡る累代記をご紹介したいと思う。 今後、メダカフリーク諸氏にとって、繁殖のヒントとなってくれれば幸いである。

【趣味のメダカ】 オーロラ幹之〜メダカ史に新たなページを刻む〜

2015年以降、メダカの表現型は非常に多岐に渡るようになった。楊貴妃メダカや幹之メダカなどの誕生に匹敵するほどの進化が起きたと言っても過言ではないだろう。その背景には、あるメダカの誕生が大きく関与している。 今回は、そのメダカに焦点を当ててみる。

【趣味のメダカ】 ヒレ長メダカの魅力と進化の可能性に迫る

2013年、熊本県長洲町、福岡県大牟田市にて、革新的な進化を遂げたメダカが生み出された。その名は、松井ヒレ長メダカ。ヒレ長メダカの新たな歴史を作ったメダカである。 今回は、このメダカの素晴らしさと、秘められた進化の可能性をお話ししようと思う。

PC / スマートフォン